10月のコラム 2021年10月
雑感<その11>
テーマは、ゲーテ長編小説「ウィルヘルム・マイステル修行時代」より前回「竪琴弾きの老人の歌3曲」(シューベルト作曲・シューマン作曲・ヴォルフ作曲の作品)について述べたが、ここで、H.ヴォルフの曲順に従って大意を記しておく。
大意
「竪琴弾きの歌 1」Wer sich der Einsamkeit ergibt 孤独に身を委ねる者は
孤独に身を委ねる者は
ああ!やがて一人になってしまう
人々はみな生き愛しているが
孤独な者はその苦しみに残されてしまう
そうだ!私の苦悩に我が身を委ねよう!
いつの日か孤独になることが
出来るなら
もう私は一人ではないのだ
恋する男がそっと忍び寄り
愛するひとが一人きりかと伺う
そのように昼夜忍び寄る
孤独な私に苦しみが
孤独な私に苦悩が
ああ!私がいつの日か墓に入って
一人になれるなら
苦悩も私を一人にしてくれるだろう!
「竪琴弾きの歌 Ⅱ」An die Türen will ich scheichen 家々の戸口に忍び寄って
家々の戸口に忍び行き
静かに慎み深く立ちましょう
心深い方の手が食べ物を与えてくれ
私はさらに次の戸口をたずねるだろう
人は皆私のそんな姿が目の前に現れれば
自分が皆幸福に思えよう
彼らはひとすじの涙を浮かべるが
それが私には何故だか分からない
「竪琴弾きの歌 Ⅲ」Wer nie sein Brot mit Tränen aß 涙してパンを食べたことのない
者や
涙してパンを食べたことのない者や
悲しい夜毎ベッドに座って
泣き明かしたことのない者は
おのれの神聖な諸力を知ってはいない
あなた方は私たちを人生の中に導き
哀れな者に罪を負わせ
そして苦しみに没頭させている
すべての罪は地上において罰せられているから
前回述べた主人公マイステルをとりまく人間は多いが、作中の人物や出来事を織りなしているのは<ミニヨンと老竪琴弾き>の物語であると言える。薄幸な少女ミニヨンとその不幸な父親であった老竪琴弾きとの運命は、全巻を通して最も美しく最も深奥な人物像として描かれている。
竪琴弾きの老人は罪と後悔を歌い、ミニヨンは女への憧憬を歌っている。
今回はシューベルトの作品から、薄幸な少女<ミニヨンの歌4曲>をテーマにして述べてみたい。
「Mignons Gesang」ミニョンの歌 D.321 ごぞんじですかレモンの花咲く国
寒い北国ドイツのサーカス一座に加わっていたミニョン、その哀れな姿を見たヴィルヘルムは彼女を助ける。
彼女はヴィルヘルムを父と呼んでいるが、それは彼への恋する思いを装っているのであった。
そして幼き頃の南国への憧憬と彼への情熱を激しく歌っている。
「Mignons Gesang」ミニョンの歌 D.877-2 語らずともよい、黙っているがよい
彼への想いを秘密にしておくのが私のつとめです、いつの日か自ずと明らかになるでしょう。
私の心は友の腕に安らかに抱かれてこそ悲しみを癒すことができるのです。
それを明かすことができるのは神様だけなのです。
「Mignons Gesang」ミニョンの歌 D.877-3 もうしばらくこのままに
寒い北国、充たされない彼への思慕、繊細なミニョンの感受性は心臓を害し衰弱していく、私は間もなく美しい現世からあの世へといってしまうでしょう。
その時はもうこのきれいな衣服などは要らなくなります。
私の心の病は若くしてこんなにも老けてしまいました。
もうしばらくこのきれいな衣服と永遠の若さをお与え下さい!
「Mignons Gesang」ミニョンの歌 D.877-4 ただあこがれを知るひとだけが
あこがれを知る人にしか私の悩みは分かりません!
ああ、私が愛するお方は、あまりにも遠いところにいるのです。
私のこの胸の燃える高鳴りは、あこがれを知る人にしかその悩みは分かりません!
(他、本曲はミニョンと竪琴弾きの老人との二重唱曲があります)