後ろで緩く束ねた金髪、真っ黒なプリーツスーツをスレンダーな身にまとい森島先生は颯爽と入ってこられた。自己紹介をされる日本語が不思議なくらいだった。
「オペラの伴奏を弾くことが、“どうやってその楽器の音を弾くか”ではありません。」と話された後、まず、その勉強の手順から始まった。次々と実に簡素に述べられたが、それだけでもコレペティの勉強が奥深く大変なことが察せられる。続いて、受講曲の中でそれらを具体的に示された。作曲家の違い、スタイルの違い、原語の違い、歌曲との違い、様々なバランスの選び方、さらにコレペティとしての役割等々、その他にも数々の事柄が指摘され、この日の限られた時間との戦いの中で、様々な実践への糸口がキラ星のように盛り込まれていった。
しかし、こうして進むにつれてやがて一つのことが浮かんできたように思われた。それがなんであったかはあえてここに書かないことにしたい。幸運にも受講し、体感できた私はもとより、出席者各々の心に言葉にできないオペラ伴奏の表現としてそれは深く残されたと思うから。
会の後のお茶の席でも、あれこれと出される私達の質問にも終始にこにこと、ピアニストとして一つずつ丁寧に答えて下さった。そしてその笑顔のまま、タクシーにのって帰っていかれた。
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